婦人科診療
婦人科の診療は、女性ホルモンに関連した各種症状(更年期障害など)の診療、子宮筋腫や子宮腺筋症・子宮内膜症など良性疾患の診療、婦人科感染症、不妊症、子宮脱や膀胱瘤、そして婦人科がんの診療などからなります。
当科では、子宮内膜症や子宮筋腫など、婦人科の良性疾患の患者様の場合、可能な限り保存的な(薬剤を用いての)治療や、手術が必要な場であっても出来るだけ体への負担が小さい手術での治療を心がけています。子宮筋腫や良性の可能性が高いと考えられる卵巣腫瘍・チョコレート嚢腫の場合には、積極的に内視鏡下手術(腹腔鏡下手術や子宮鏡手術)や小さな開腹創(下着のラインより下方に径5cm以下の傷)での手術を施行しています。腫瘍が大きかったり、癒着が激しかったりして、内視鏡下手術や小開腹創での手術が困難な場合には、お腹を開けての手術(開腹手術)になりますが、その場合でも出来うる限り手術による体への負担を減らす努力をしています。また、子宮脱や膀胱瘤の場合には、出来るだけ体への侵襲の少ない治療法から提案をしています。いきなり手術をお勧めする事はありませんので、まずご相談下さい。治療法を相談させていただく際には、ご病気の現状をしっかりと説明し、ご理解を頂いた上で、そこから必要と考えられる治療のoptionを提示させていただき、それぞれのメリット・デメリットについても説明をさせて頂いた上で、患者様が納得されて治療を受けて頂けるよう努力しています。
婦人科の感染症患者様に対しては、当院の感染症科医師の力を借りながら適切な医療を提供しています。不妊症患者様については、当科で対応できる限りの対応をしておりますが、対外授精など専門性の高い医療が必要と考えられる場合には、近隣若しくは首都圏の不妊症を専門とする医療機関を紹介しています。
婦人科がんに対する治療法の考え方
婦人科がん診療では、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどの婦人科の主要ながんの他、外陰がん、腟がん、卵管がん、絨毛性疾患(胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛がん)等多彩な疾患があります。当科では全ての婦人科に関連したがん患者様の診療を積極的に行い、どのような患者さまであっても、婦人科のがんに関連した原則全ての患者様を受け入れています。現在当科では、病理診断部門と週一回の婦人科病理カンファレンスを行い、婦人科病理診断が専門の科長を中心とした婦人科医師と病理専門医が情報を交換しながら、精確な病理診断を得る事を徹底しています。そして、得られた精度の高い診断を元に、現在の病状と、そこから考えられる治療法について(ガイドラインで推奨されている治療法を原則として)十分に説明を行い、患者さんが納得して治療を選択することができるよう取り組んでいます。がんと戦う手段としては、現在、1)手術療法、2)放射線療法、3)抗がん化学療法、4)免疫チェックポイント阻害剤等を用いた免疫療法、などがあります。当科では、これらすべての手段を駆使して患者様ががんと戦われる事を支援しています。以下に各種婦人科がん及びその状況に対する当科での考え方を述べて行きます。
1)子宮頸がん
子宮頸がん患者様の場合、まず内診・直腸診やMRI、造影CTなどの画像診断を用いて、子宮頸がんの局所の進展具合、遠隔臓器への伸展の有無・程度などを確認し進行期を決定します。子宮頸部に浸潤がんがあり子宮頸部に留まっておられる進行期1期(1a1〜1b2期)および腟壁への伸展程度の軽い場合(IIa期)までの患者様には、それが扁平上皮癌であれ、腺癌であれ、まず第一に根治的手術療法をお勧めしています。ただ、合併症や既存の疾患の為に手術療法がお勧め出来ない場合や、手術療法を選択されたくない患者様の場合には、放射線療法(もしくは同時化学放射線療法)をお勧めする事もあります。II期までの患者様の場合、手術療法であっても放射線療法であっても治療成績(5年生存率)には基本的に大きな違いはないことが知られています。ただ手術療法の場合には、手術自体や全身麻酔のリスク、術後疼痛や術後合併症のリスクがある代わりに、摘出された標本の病理学的検査によって、実際のがんの広がりがどこまであったのか(がんがリンパ節にまで転移していたのかどうか、血管・リンパ管の中に広がっているのかどうか)等、その後の治療の要否や治療の内容を考えて行く上で、極めて大切な情報が得られるというメリットがあります。根治的手術療法の場合には、子宮周辺の組織を広く切除する術式(広汎子宮全摘術、準広汎子宮全摘術)を施行しており、子宮周辺のリンパ節も原則広汎に切除しますが、手術内容については、術後の合併症(排尿障害や下肢のリンパ浮腫など)を考慮し、患者様と相談の上その内容を決めて行きます。IIb期の患者様の場合には、ガイドライン上は手術も選択肢にはなりますが、術後に再発予防を目的とした放射線療法の追加する事が避けられず、術後の放射線療法に伴なう重篤な合併症(腸閉塞や直腸腟瘻、膀胱腟瘻など)のリスクが高まることから、根治手術はお勧めしておらず、基本的には放射線療法(または同時化学放射線療法)をお勧めしています。III期、IVa期患者様の場合には、ガイドラインに記載されている通り同時化学放射線療法が基本的治療方針となります。遠隔臓器(肺、肝臓など)への転移を認めるIVbの患者様の場合は、抗がん剤による化学療法施行を施行しつつ、必要に応じて手術療法や放射線療法を追加することを提案しています。
※同時化学放射線療法とは:通常の放射線療法にあわせて、週に一度抗がん剤(主にシスプラチン)を投与し、腫瘍組織の放射線感受性を高める事により治療効果の向上を目指す治療法。
2) 子宮体がん
子宮体がんの患者様の場合には、進行期に関わらず基本的には主病巣のある子宮、転移が起こりやすい隣接臓器の卵巣・卵管を供に摘出する手術療法をお勧めしています。この際、骨盤リンパ節や傍大動脈リンパ節は腫大があった場合のみ摘出(生検または郭清)し、多くの施設で施行されている腫れのないリンパ節をも徹底的に摘出する「系統的リンパ節郭清術」は施行していません(リンパ節生検とは一部分のリンパ節のみ摘出する術式を言います)。摘出標本の病理診断によって病変の拡がり(がんが子宮のどこまで及んでいるのか、子宮を超えて他臓器に転移していないか等)を確認した後に、その拡がりから再発の起こりやすさを推測し、再発されやすいと思われる患者様に対しては術後の抗がん剤治療もしくは放射線治療をお勧めしています。
3) 卵巣がん(卵管がん・腹膜がんも同様)
卵巣がんは、発症しても症状が出にくいため非常に診断がつきにくいがんです。そのため、多くの卵巣がん患者様が、かなり進行してから見つかっている現状があります。子宮頸がんや子宮体がんの場合は、腟から病巣の組織を一部取り出し、手術前にがんの診断を確定できる事が多いのですが、卵巣がんの場合は、腹壁から針などで卵巣の腫瘤を刺して組織を採取しようとすると、針を刺した穴から腫瘤の内容がおなかの中に広がり、病気をおなかの中に人為的に散らばらせてしまう(播種を起こらせてしまう)可能性が高いため行う事が出来ません。そのため、手術をする以前に診断が確定する事はありません。手術によって病巣を摘出して初めて卵巣がんという診断がつきます。そのため、卵巣がんを疑われた患者様の場合には、経腟超音波断層法、造影CT、MRIなどの画像診断を駆使し、血清中の腫瘍マーカーと呼ばれる物質(CA125、CA199、CEAなど)の濃度を測定して、手術前に出来るだけ正しい診断に近づける様にし、その上で手術させて頂くという手順を踏みます。卵巣がんが極めて強く疑われる場合の手術では、卵巣がん基本術式(子宮摘出、両側卵巣及び卵管摘出および大網切除術)を行い、腹膜や腸間膜、横隔膜の観察を通して病巣が認められる場合には出来る限り病巣を摘出します。これは、肉眼的にみえる病巣を総て摘出出来た場合とそう出来なかった場合には、大きな予後の差がある事が知られているからです。また、リンパ節は子宮体がんの際と同様に、腫大のあるもののみを摘出する方針です。腫大のないリンパ節は基本的には摘出しませんので、術後のリンパ浮腫などの合併症は軽度で済んでいる印象があります。
4) 術後のリンパ浮腫について
当科ではこの様な手術方針で治療を行っていますので、系統的に沢山のリンパ節を摘出する場合と比較して、リンパ浮腫は起こりにくいと考えています。ただ、リンパ節を多く切除することになる子宮頸がん根治手術後や、リンパ節生検の後に一時的に下肢に浮腫が起こることはあり、その対策をしっかりと行う事も大事です。そこで、病棟のリンパ浮腫セラピストの資格を有する看護師2名を中心に、科長の藤村も厚生労働省後援の新リンパ浮腫研修を修了・合格し、がん患者さんのリンパ浮腫に対して高い精度の対応をしています。
5) 上記以外の婦人科悪性腫瘍について
これらのがんの他に、外陰がん、腟がん、絨毛がんを含めた絨毛性疾患、子宮頸がんの前がん状態としての子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)などが婦人科悪性腫瘍としてあげられます。当科ではこれら全ての疾患に対応していますが、得に、子宮頸がんやその前駆病変の大部分の原因と考えられているHuman Papilloma Virus (HPV)については、科長の藤村は専門としており、HPVについての学術団体「日本HPV研究会」の発足当時から世話人を務めています。(日本HPV研究会HP http://jhpv.jp/)
6) がん治療に伴う妊よう性(妊娠出来る可能性)の温存について
当科での対応は限られていますが、特定非営利活動法人 日本がん・生殖医療学会(ISFP)(http://www.j-sfp.org/)参加施設と連携を取りつつ、妊よう能の温存を可能な限り追及しています。実際には、卵巣の境界悪性腫瘍を何度も再発され、その度に開腹手術による腫瘍摘出術を受けられながら、ISFP理事長 鈴木直 先生(聖マリアンナ医科大学産婦人科教授)と相談しながら妊よう能の温存を図り、最終的にはお二人の元気な赤ちゃんを得られた患者様がおられます。可能な限り患者様のご希望に沿うべく、その可能性を追求して行きます。
7) 再発された患者様の治療について
現在では各種婦人科がんに対するガイドラインが整備され、全国津々浦々において、初発のがん患者様には標準的治療が行われるようになって来ました。そのため、初発のがん患者様に対する治療は全国どこにいても標準的治療が受けられるようになってきました。しかし、再発された患者様に対する治療の考え方については、ガイドラインでは根治は困難であると言うコンセンサスのもとに、体力の保全を重視した治療を提供することが謳われているのみで、再発の状況が患者様一人一人によって異なる事情もあり、標準的な対応策は確立されていないのが現状です。しかし医療の現場を鑑みるに、初発のがんに対して標準的治療が行われ、多くのがん患者様が治って行かれる(子宮頸がんでは全患者様の7〜8割、子宮体がんでは8〜9割の方が治癒されると考えられています)裏側に、がんが治らずに再発され、最終的にはがんによって亡くなられる可能性の高い患者様(卵巣がんでは治癒される患者様は5割以下、半分以上の患者様は再発された後、がんによって死亡されます)がおられます。現代の医療では治る患者様を増やす努力は多くされているものの、目の前にいる再発された患者様のそれからの人生を積極的にサポートし、より良い人生を送って頂く為に寄り添う、支える医療やケアにはまだまだ十分な労力・努力が払われてはいないと感じています。当科では、治って行かれる患者様を笑顔でご自宅にお帰り頂きながら、がんが再発され、厳しい状況におかれた患者様にも希望の火は灯り、必ず笑顔を取り戻せることを信じて、患者様の人生に寄り添う医療・ケアを実践しています。
婦人科がん患者様への緩和ケア
がん診療では、患者様本人のみならずそのご家族にも大きな肉体的・精神的負担がかかります。病状によっては根治が難しい場合もあり、医療従事者が患者様やそのご家族にいろいろな意味で関わる事は不可欠です。この場合、患者様の痛みを和らげたり、つらさを少なくしたりといった肉体的な対応・ケアのみならず、ご本人やご家族の精神的なサポート・ケアのお手伝いをしながら、患者様ご自身が、残されている時間の生き方を考え、ご自身で生き方を決められ、人生最後の「生きる目標」が達成できるように、ご家族や医療従事者が支えになってゆくことが大切と考えています。患者様が外泊や退院される際には、在宅での生活支援のために、地域の医師や訪問看護ステーション、調剤薬局などと協調しながら、患者様がご自宅で少しでも快適に過ごして頂ける様、主治医や病棟看護師はもちろん、退院調整看護師・メディカルソーシャルワーカー(MSW)・精神科医師・薬剤師・栄養士らと共に、患者様の生活の支援態勢をご自宅周辺で実現できる様努力しています。
尚、当科科長である藤村は以上の理念を元に、平成24年11月、全国の婦人科腫瘍の専門医有志を募り、学会「特定非営利活動法人 婦人科腫瘍の緩和医療を考える会」を立ち上げ、理事長として活動しています。今後も、全国の婦人科がんの診療現場における充実した緩和医療の実現に向けて、より一層啓蒙・啓発活動に力を入れてゆきたいと考えています。
この様な医療への取り組みが評価されてか、科長藤村は2006年より8期16年間連続して、
米国ベストドクター社が選出するベストドクターに選ばれています。
- ベストドクターズ社とは
- ベストドクターズ社は病に苦しむ方々が最良の医療を受ける手助けがしたいという強い思いのもと、1989年にハーバード大学医学部所属の医師2名によって創業。米国マサチューセッツ州ボストンに本社を置き、現在70カ国で3,000万人以上の方々にサービスを提供しています。弊社では過去30年近くにわたり、各分野で優れた医師についての調査を実施しています。現在この調査によって見出された医師は世界で53,000名以上。450以上の専門・副専門分野に及ぶ医師が弊社のデータベースに入力されています。弊社日本データベースも同様の手法をベースに構築されました。2018年5月現在、弊社の日本データベースに入力されている医師は約6,500名です。(Best doctors HP https://bestdoctors.com/japan/about-us/より)