胃癌の内視鏡治療
内視鏡を使った新しい胃癌の治療法
胃癌の治療法には「手術」「抗がん剤」をはじめとして様々な治療法がありますが、転移している可能性がきわめて低い早期の胃癌に対しては内視鏡を使ってお腹をきらない治療方法が用いられるようになっています。内視鏡治療は手術に比べ、入院が短期間ですみ、胃の大きさが変わらず後遺症がほとんどない、といった利点があります。
内視鏡をつかった治療法として一般的であった粘膜切除術(EMR)は、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーを病変部に引っ掛け粘膜を焼き切る方法です。この治療は短時間で行え、危険性が少ないですが、切除できる大きさに限界があり、硬い病変(潰瘍を伴うものや再発病変)や部位によっては切除が難しく、微小な取り残しをおこしやすい、といった欠点がありました。そこで、このような治療の難しい病変でも確実に取り残しなく切除できるように、内視鏡からだした細い電気メスによって、胃の粘膜をはがしていく(剥離していく)方法、粘膜下層剥離術(ESD)が開発されました。平成18年4月から保険収載され(医療保険で行える治療になった)、これを契機に胃癌の内視鏡治療ではこちらが主流となっています。
どんな胃癌が内視鏡治療の対象となるのでしょうか
胃癌学会のガイドラインでは(1)癌が胃の表層(粘膜内)にとどまっているもの。 (2)分化型癌(癌細胞の形や並び方が胃の粘膜構造を残しているもの) (3)大きさが2cm以下のもの (4)癌の中に潰瘍を併発していないものの4つの条件を挙げていましたが、ESDによって、これまで切除が難しかった大きな病変や硬い病変に対しても治療が可能になり(3)(4)に当てはまらない病変も治療対象にできるようになってきています。
内視鏡治療の手順
開腹手術とは異なり、全身麻酔はかけないで、鎮痛剤と鎮静剤を用いておこないます。通常1時間ほどで終了することが多いですが、大きな病変では数時間要する場合もあります。治療後多くの方は1~2日で食事も可能となり、入院も1週間程度ですみます。しかし、病理検査の結果で、リンパ管や血管、あるいは粘膜より深くに癌が入り込んでいた場合には転移をおこす可能性があり、後日追加の外科切除が必要になります。つまりESDは病理検査の結果をみて、はじめて治療として完結します。治療に伴って起きうるリスク(偶発症)としては出血、穿孔(胃に穴があく)があります。多くの場合は内視鏡的に処置可能ですが、稀に外科手術が必要になることもあります。
<ESDの手順>
治療の実際
治療の実際をお示しします。まず、内視鏡で病変を確認します。病変を見やすくするため色素を散布して病変を確認後(図1)、病変の周囲に少し距離をおきマークをつけて(図2)(マーキング)、わかりやすいようにします。その後マーキングの外側にITナイフという器具を用いて全周性に切開を行います。(図3)全周切開後、粘膜を剥がしていき(剥離法)病変を切除します。(図4)当院ではこれまで約120症例を施行しており、安全に行える治療法です。