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肝細胞癌の肝切除術について

消化器外科 講師
後藤 悦久

東京医科大学茨城医療センターでは、肝細胞癌に対して、消化器センターとして内科と外科が共同で治療にあたっています。肝細胞癌の患者様は、通常は内科の先生が診断を行い、外科的治療の適応もしくは可能性について外科医とともに考え治療方針を決定します。一般的には、肝癌研究会の肝癌治療ガイドラインのアルゴリズム(図1)にそって治療は決められていきますが、患者様それぞれに適切な治療を行うため、精査後患者様とよく相談してから治療方針は決めていきます。
 

図1 肝がん治療選択のためのアルゴリズム(肝癌診療ガイドラインより)

肝障害度はもっとも肝機能の保たれている方がA、肝機能の悪い人がCになります。切除は開腹手術による肝切除を、局所療法は、ラジオ波凝固術やエタノール注入療法を、塞栓は血管造影による塞栓療法を、動注は肝動脈にカテーテルを入れて抗がん剤を定期的に注入する方法をそれぞれ意味しています。

肝細胞癌の患者様は、慢性肝疾患を基礎にもっている方が多いため、その肝予備能がどの程度あるかによって、肝を切除する量に制限ができること、また多中心性発癌といって手術後の残った肝臓に転移ではなく新たに癌が発生する可能性が高いこと(慢性肝疾患の程度が進んでいる人ほど可能性が高い)などを考慮しながら肝切除術が適応かどうかを決めなければなりません。
肝切除術の利点は、他の内科的治療に比べると局所再発が無いということです。しかし、欠点として、体への侵襲は大きくなり、肝予備能が低い患者様には負担が大きくなるため充分な切除が行なえないこともありえます。また、前に述べた様に再発率の高い疾患であるため、QOLを考えたバランスの良い治療を考える必要があります。
 

ここで、手術を勧められれば、やはり合併症が気になることと思います。一番心配なのは、肝不全に陥ることです。これは重篤な合併症ですが、厳密に手術適応を決めている現在でも0にはできません。肝不全の原因はいろいろありますが、術中の出血量は大きな要因の一つです。この点では現在、手術手技と医療器具の発達よって術中出血がかなり抑えられようになり肝不全になる確率は確実に低くなっています。当茨城医療センターの消化器外科でも過去5年間、術後合併症としての肝不全での死亡例はありません。輸血の症例も過去5年間で約20%と確実に減っております。

肝切除術中の出血を抑制する方法について、少し具体的に述べてみます。肝臓に流入する血管は動脈と門脈と2系統があります。この2本の血管はほぼ 並んで走行しており、胆管と併せて3本が1セットとなっています(これをグリッソン鞘と呼びます)。このグリッソン鞘を肝門部(肝臓の入り口)で切除する範囲の方だけ(右又は左)圧迫して血流を止めることにより、肝臓の実質からの出血量を減らすことができます。もちろん継続して止めておくことはできず、15分止め、5分血流を再開のようにすると肝機能はあまり落ちないことがわかっており安全に行なえるとされています。しかし、これで全ての出血を抑えることはできません。肝の血管系にはもう一つ肝静脈が存在し通常この血流は止められていないため出血する可能性はここだけとなります。そのため、この出血だけをコントロールすれば良いようになるため、かなり出血を抑えられます(図2)。

図2 肝の門脈と静脈系

門脈系(門脈、動脈、胆管)と肝静脈の走行を考えながら、肝臓の切除する部分とそのための切離線を決めます。左、右、中央などのほかに、数カ所を分けて切除する場合もあります。

さらに、これが非常に効果的なのですが、電気メスの発達により、肝実質の凝固止血が充分に行えるようになりました。まず凝固止血し、その後に肝実質を切れるようになったため肝静脈からの出血も抑えられ、出血量が格段に減りました。(写真1、2)

写真1 切除前:肝腫瘍は白色調を呈し突出している。
(青矢印)
写真2 切除後:切離面は凝固止血されている。
(黄矢印はグリッソン鞘)

それ以外にも麻酔管理、術後管理の発達などで肝不全を含めた合併症は以前より減り比較的安全に手術を行える様になってきております。
手術時間は肝臓の切除する範囲、場所、腫瘍の大きさによってかなり変わりますが、肝の右半分を切除する定形的な肝右葉切除で6時間ぐらいとなります。
手術後順調に経過した場合、術後10日目以降には退院可能となります。入院は手術2日前となるので入院期間はトータルで2週間位となります。
肝切除術についてその一部を述べました。肝細胞癌の外科治療には肝切除術以外に、条件により肝移植も保険適応となりました。当院では肝移植は行っておりませんが、肝細胞癌の治療について疑問のある場合は当院の消化器センターにご相談下さい。