整容性を重視した乳がん手術
-内視鏡下皮膚温存乳腺全摘術1期的乳房再建術-
近年、乳がん患者数の増加は著しく、女性の悪性腫瘍罹患者数では第1位です。乳がんを克服するには早期発見・早期治療が重要です。そのため、専門性の高い診断と治療および先進的な高度医療を提供する必要があります。
乳がん治療の大切な柱である手術は、20年程前まで長きにわたり、がんになった乳房を全て取り去る乳房切除術が標準手術とされてきました。
その後、乳房の一部を切除する乳房温存手術に残存乳房への放射線治療を組み合わせる乳房温存療法でも、乳房切除術と同等の成績(生存率)が得られることが証明され、患者さんの生活の質 (QOL)を損なわない目的で、乳房温存手術施行例が年々増加してきました。それに伴い、新聞・雑誌等では、それぞれの乳がん治療専門施設における乳房温存手術の施行率が高い施設が良いかのように報道されています。しかしながら、乳房温存療法は患者さんご自身が美容的にも満足できる整容性を損なわない手術でなければ全く意味がありません。乳房の4分の1も切除して大きく乳房の形がくずれてしまう温存手術で温存率を上げても、医師側が満足するだけで患者さんが本当に満足しているかは疑問です。
われわれは、以前より写真1に示すような整容性を損なわない乳房温存療法を行ってきましたが、近年、マンモグラフィ検診の普及などにより、しこりとして触れない非浸潤癌でも、広範な乳管内進展を有する乳癌が多く見つかるようになりました。このような従来の乳房温存術では癌を取り残したり、あるいは術後の乳房変形が著しくなる症例に対して、乳房皮膚は温存して乳腺のみを内視鏡補助下に切除する、内視鏡下乳腺切除+1期的乳房再建術を、当科では形成外科と共同で2008年4月から茨城県で初めて開始しました(図1、写真2)。
内視鏡を使用して乳腺切除した後、形成外科チームにより筋皮弁を用いて1期的乳房再建を行っていますが、本年10月までに34人の患者さんに施行しました。施行した患者さん皆さんに美容的にも大変満足いただき、生活の質を損なわない外科治療が可能となっています(写真3)。
癌患者さんのためにチーム医療の重要性が唱えられています。当院では、今後も形成外科チームと連携しながら手術を行い、その他、病理部・放射線科など多くの部署の協力を得ながら、個々の患者さんそれぞれの病態やご希望に合致した満足いただける医療の提供を心がけてまいります。