HPVワクチンと子宮頚癌

子宮頸がんの原因は?

子宮頸がんは、Human Papilloma Virus (HPV) の感染によって引き起こされた子宮頸がん前駆病変(異形成、上皮内がんなど)を通過して、引き起こされてくると考えられています。通常は、このウイルスの感染から年単位の時間を経過して始めてがんにまで至ると考えられています。HPVの中には、感染すると子宮頸がんへ進展させ易いと推定されるいくつかの型が知られています。その中でも16型や18型は、その他の型のHPVより、子宮頸がんへ進行させる危険性が高いと考えられていますが、これらの型は、実は若い女性には非常に良く見つかってくる事も解ってきています。この場合、感染したHPVの殆どは、御自身の免疫力によって排除されてしまいますので、16型や18型に感染していることが判明したからといって、その皆さんがすぐに子宮頸がんになってしまうという訳ではありません。がん化には時間がかかることが解っていますので、きちんと検診を受けられる事によって、がん前駆病変の間に見つけることができれば、非常に小さな侵襲の手術(円錐切除術)で治癒してしまうことが出来ます。

HPVが感染しているか否かはどうやって調べるのですか?

子宮頸がん検診と同じ要領で、子宮頸部から粘液をとり、その粘液に含まれている細胞の中にHPVがいるかどうか、そしているとすればそのHPVが、がん化を引き起こし易いと考えられているhigh risk typeのHPVであるのか否か、場合によっては、そのHPVの型の判定までを行う事が出来ます。最近では、細胞診の結果が、ASC-USという異形成があるかどうかはっきりしない場合につけられる結果となった場合には、「high risk typeのHPVがいるのかいないのか」を調べる検査方法が、保険収載となりました。また、自費にはなりますが、HPVの型の判定までを行う事も可能です(当院では税込6300円で施行しています)。

HPVってどんな風に感染するの?

HPVは主に性行為を介して感染する事が知られています。コンドームを用いないで行われた性行為によって伝播すると考えられます。

とすると、子宮頸がんやがん前駆病変になる方は、いわゆる「お盛んな方」といえるのでしょうか?

全くその様な事はありません。生涯でたった一回しか性交渉の無い女性にも子宮頸がんは起こり得ます。

私は結婚してからは、主人としか性交渉がありませんが、子宮頸がんの前駆病変(異形成)と診断されました。主人が浮気をしているということでしょうか?

夫婦間でしか性行為をしていないカップルの女性にもHPV感染を介する子宮頸がんやがん前駆病変はおこります。HPVの感染から病変の出現までには長い時間がかかると考えられますので、ご主人が奥さんと巡り会われる前におつきあいのあった女性からHPVを移され、それを奥さんに移してしまわれた場合や、奥さんご自身がご主人と巡り会われる前におつきあいのあった男性からHPVをもらわれた可能性も十分にあります。大事な事は、HPVがどこから来たかを詮索する事ではなく、現在のご自身のご病状をしっかりと理解され、治療が必要な方は治療をしっかりと受けられ、経過観察の方はしっかりと経過を観察される事といえます。

最近HPVに対するワクチンがあると聞きましたが、どんな働きをするのですか?

このワクチンは、HPV16型と18型のウイルス粒子に類似した粒子を人工的に作成し、それに免疫反応(抗体産生)を起こし易くする物質を合わせたものです。HPV16型および18型によって引き起こされる子宮頸がんは、ほぼ100%近い確率で予防できると考えられていますが、HPV16型と18型によって引き起こされている子宮頸がんは日本の女性の場合には、全子宮頸がんの約60%と考えられていますので、この部分(全子宮頸がんの約60%)分が予防できるということになります。この様な訳で、このワクチンによって、全ての子宮頸がんの発症を予防できる訳ではありません。

HPVワクチンはどんな風に使われるのですか?また料金はいくらくらいかかりますか?

このHPVワクチンは、筋肉内に注射するワクチンです。最初に一回打ち、その一ヶ月後にもう一度打ち、最後に六ヶ月後にもう一度打ちます。半年に渡って計3回を打つ事によって、十分な免疫力が得られると考えられています。このワクチンは、自費扱いですので、各医療機関によって値段の設定は異なりますが、概ね1回につき15000円から20000円の料金が設定されている事が多い様です。当院では、1回税込みで15,620円、3回で計46,860円となります。

このワクチンはどんな人が受けると良いのでしょうか?

日本産科婦人科学会等では、10歳から45歳までの女性を対象とすることが提唱されています。このワクチンは、既にHPV感染が起こってしまい現在も感染が継続している女性や、実際にがん前駆病変(異形成や上皮内がん)や子宮頸がんになってしまっている方には効果はありません。HPV16型や18型に現在感染されていない女性に効果が期待できますので、一番期待できる対象は、まだ性交渉の経験のない女性という事になります。最近では初めて性交渉を経験する年齢の若年化が顕著となってきているとの報告が多い事から、出来るだけ若年の段階での接種が有効と思われますが、効果の持続期間を考慮すると、性交渉を始める直前の年襟が最も妥当と考えられます。そういった事情から、10歳から12歳程までの女児に接種する事が最も推奨されるのではないかと思われます。ただ、このワクチンは、それ以降の年齢の女性にも予防効果がある事も解ってきています。Virginの女性に対する効果と同等の効果までは望めないとしても、HPV16型・18型の一般女性における検出率や感染後の高い消失率を考慮すると、sexual activityの高い20歳代や30歳代の女性にもかなり高い効果が期待できる事が予想されますので、そういった女性にもお薦めできるのではないかと思われます。