腎癌治療の最前線

泌尿器科 教授
青柳 貞一郎

腎実質にできる腫瘍の多くは悪性であり、その85%近くは腎細胞癌(腎癌)です。CTスキャンや腹部超音波検査の普及で腎癌は早期に発見される例が増えましたが、いまだに20~30%は転移を伴う進行癌の状態で発見されています。腎癌は抗がん剤や放射線治療が効かないため、従来から手術的治療が転移巣を含めて唯一の効果的治療と言われてきました。

転移がある例には、インターフェロンやインターロイキン2といった免疫力を高めて癌を治療する方法も行われてきましたが、10‐20%位の患者さんにしか効かず、もっと効果のある治療法の出現が待たれていましたが、転移例にも40%近くに効果がある血管新生因子を標的にした分子標的剤が一昨年4月から保険適応になり腎癌治療に新しい展開が見えてきました。
また手術治療も早期に発見される例が増えて根治される率が高くなることで、従来の腎臓をまるごと摘出する方法から、腫瘍の部分のみを摘出する方法に変ってきています。現在では腫瘍の大きさが4cm以下の場合は、腎臓を部分的に切除し、腎機能の低下を最小に防ぐ手術が一般的になりました(図1)。

図1

周囲の正常部とともに切除された腎腫瘍(腎部分切除術)
 

当院ではこの2年間に腎癌の治療として10例の根治的腎摘術(腎全体を摘出する手術)、早期腎癌に対する腎機能温存手術として腎部分切除術を8例に行ないました。また転移を有する例にも肺葉切除や、インターロイキン2と分子標的剤であるソラフェニブの併用、或いはインターロイキンとインターフェロンαの併用療法などを行い良好な効果を得ています(図2)。

図2

分子標的剤治療で肺転移巣が縮小

 
先端医学的研究として腎癌発癌のメカニズムについて科長の青柳と産業技術総合研究所の木山博士との共同研究で腎癌から見つかった癌抑制遺伝子kankを研究中です。本遺伝子は9番目の染色体にあって腎癌の多くでこの遺伝子の働きが弱まっていることが判明しました。また腎癌の多くを占める淡明細胞癌に発現されているCA9という酵素を用いて当院腎臓内科の平山准教授が診断、当科の坂本助教が免疫治療への応用について研究中です。